1.電気と電動機の基本
 1−1 直流と交流

 1−2 3相交流

 1−3 電力の送電、配電(電力系統)と動力電源系統

2.電動機とその使い方
 2−1 電動機(モータ)はどのように廻り、力(トルク)を出すのか?
     
   →電動機の基本原理と性質
 

 2−2 電動機と負荷機械

  2−3 電動機の顔ぶれ

  2−3−1 電動機の種類

  2−3−2 直流電動機

  2−3−3  同期電動機         

  2−3−4 誘導電動機

      かご形誘導電動機

      巻線形誘導電動機

  2−4 電動機の使い方

    2−4−1 直流電動機の使い方

   2−4−2 かご形誘導電動機の使い方

       3相交流動力電源に直接接続して始動、運転をする

       可変電圧可変周波数(VVVF)装置による回転数制御

   2−4−3 巻線形誘導電動機の使い方 

   2−4−4 同期電動機の使い方
   3相交流電源に直接接続して始動、運転をする  
   可変電圧可変周波数(VVVF)電源による回転数制御      

   2−5 主な電動機の速度制御装置の比較

 電動機の顔ぶれにより直流電動機、かご形誘導電動機、巻線形誘導電動機、同期電動機の動作と特徴、電動機の使い方で、3相交流電源に直接接続、始動し、電動機の定格回転数で運転する方法と電圧や周波数を変えて回転数を制御する方法のお話をして来ました。3相交流電源で始動し、定格運転で運転する方法は、そのほとんどがかご形誘導電動機を使うもので、極く大容量のものだけに同期電動機を適用し、負荷慣性モーメントが特に大きな駆動機械の時のみ巻線型誘導電動機の適用をするというものでした。しかし、回転数制御を行う方式はいくつか考えられます。依って、以下に代表的な速度(回転数)制御装置を比較したいと思います。
                                   表2.1 電動機の速度制御装置


 電動機速度制御装置としては、その基本性能を与える直流電動機(DCM)の(電機子)電圧制御、その最終形のサイリスタレオナード、電車、電気機関車に伝統的に使われてきた直流電動機(DCM)の抵抗制御、最近、最も普遍的なかご形誘導電動機(SCIM)の可変電圧可変周波数制御(インバータ制御)、大容量用途にもっぱら使われている同期電動機(SM)可変電圧可変周波数制御(インバータ制御)、永久磁石同期電動機(PMSM)可変電圧可変周波数制御(インバータ制御)を比較したいと思います。電車の駆動に使われたことがある直流電動機電機子チョッパー制御は電機子の電圧を制御する方式ですので、サイリスタレオナードとほぼ同じと思われますので、特に、比較対象とはしませんでした。
 先ず、電動機を比べてみましょう。直流電動機は整流子を持っていますので、交流電動機より大きくなりますが、むしろ、その整流子のため、回転数を高くできないことが、電動機を小さくできない主因と言って良いかも知れません。電動機の体積は電動機の出力KWではなく、トルクにほぼ比例します。交流電動機は回転数を高くして電動機トルクを小さく出来ますので、電動機体積をトルクにほぼ比例して小さくできます。電動機の出力軸にギャー(減速機)を設け、負荷の回転数に合せますと必要な負荷トルクが得られますので、電動機回転数を高くして、小型化出来ます。電車では、台車枠に載せる電動機が小さくなり、駆動装置の簡素化が出来ます。(ここで、駆動装置というのは、電動機軸と車軸の動きの違いを吸収する装置で、カルダン駆動とかWN駆動と称されるものです。)JR東日本の山手線や東海道線などの中距離電車にたくさん使われているE231系について考えてみます。交流電動機(かご形誘導電動機)をVVVF(IGBTインバータ)で駆動しており、1台の電動機容量は95kWです。ギャー比は7.07ですので、電動機回転数は5000rpmを越えるものと考えられます。直流電動機の場合は2500rpmぐらいと想定されますので、交流電動機を採用することにより、その体積は1/2になります。直流電動機を使った場合、電動機軸を中空にしてその中に可撓軸を通す複雑な駆動装置(中空軸並行カルダン駆動)を採用せねばなりませんでしたが、交流電動機採用の場合、電動機が小さくなり、電動機駆動軸の延長上に可撓カップリングを設けるより簡易な駆動装置(TD並行カルダン駆動)で済みます。新幹線N700系も305kWかご形誘導電動機の回転数は5000rpmを越える高速にして電動機体積を小さくして、台車に搭載しています。DB(ドイツ鉄道)のICE3は500kWの高速かご形誘導電動機を台車に搭載している電車で、従来(ICE1、ICE2)の動力集中方式(機関車方式)を動力分散方式(電車方式)に転換しました。乗客を乗せることの出来ない機関車を編成の前後に繋がねばならない動力集中式は否定され、我が国が主張していた動力分散方式が主流になりました。交流電動機の適用は電動機回転数とギャー比を調整することで、電動機と負荷機械の慣性モーメントを1:1とすることにより、加減速特性、速度制御応答の最適化も計ることが出来、サーボモータに適用されております。製鉄所の圧延主機などの大容量直流電動機ではその製作限界から、2台以上で構成されることになり、駆動軸系が複雑で柔らかくなり、その速度制御応答が十分上げられませんでした。交流電動機は大容量機でも1台で製作出来ますので、駆動系もシンプルで、剛性が高く出来、速度制御応答を上げられます。このようにVVVFで交流電動機の速度制御が容易に出来るようになって、直流電動機の制約から解放され、新しい電動機適用の展望が開けました。依って、直流電動機は現在ではほとんど製作中止になっており、新規の適用はないとは思いますが、動いているものはたくさんありますので、その性質を知っておく必要はあると思います。
 次に交流電動機同志の比較です。大きく分けて、誘導電動機と同期電動機に分けられます。誘導電動機にはかご形と巻線形がありますが、巻線形は適用が一般的ではありませんので、ここではかご形誘導電動機(SCIM)を比較対象とします。SCIMは1次3相巻線から電機子電流に相当する負荷電流と磁束を作る励磁電流の両方が供給されます。励磁電流はそんなに多くはないのですが、遅れの無効電力ですので、電動機の入力(1次)皮相電力は大きくなり、1次電流も大きくなります。負荷電流は2次かごに誘導され、磁束と交わる負荷トルクに比例した電流になります。同期電動機(SM)は回転子に磁極があり、スリップリングとブラッシを介して、励磁用直流電源で励磁されます。1次、固定子3相巻線はSCIMと同じですが、電機子電流(負荷電流)だけですので、SCIMに比べ、流れる電流は少なく、巻線は細く出来ます。回転子側には励磁損失が生じますが、励磁電流は電機子電流の2%程度ですので、損失もわずかです。その上、ほとんどのSMは凸形磁極ですので、磁極間の反発トルク(リラクタンストルク)も発生しますので、それを見込むと、電動機体積もさらに小さくなり、損失も少なく、入力電力も小さくなります。しかし、SCIMに比べ構造がやや複雑で励磁直流電源も必要ですので、大容量用途に主に用いられて来ました。永久磁石を用いたPMSMは永久磁石の改良で徐々に製作可能容量が上がって来ました。比較的容量の小さいサーボモータに使われていましたが、極限まで高効率、小型、軽量化を追求する電気自動車、ハイブリッド自動車には欠かせないものになっています。最近電車にも使用されいますが、コスト面などで、これからどうなるか?注目されるところです。
                                   電動機速度制御装置は製鉄所や非鉄(アルミ、銅など)金属工場の圧延機の主機、補機、製紙工場の抄紙機(ペーパーミル)、コイル状に巻かれた鋼帯、紙、フィルムなどの化学的、冶金的な処理を連続的に行う行う連続処理ライン(プロセスライン)への適用から発達してきました。DCMは電機子電圧を変えることにより、容易に回転数を変えられますので、伝統的に使われて来ました。可変直流電源としては、電動発電機(M−Gset)から水銀整流器となり、最終形としてはサイリスタ変換器が使われるようになりました。(サイリスタレオナード)これは変換器の静止化、性能的にもほぼ満足するものでした。電鉄では、交流電化の新幹線100系、200系の一部にサイリスタ変換器は使われましたが、直流の架線電圧の電車、電気機関車は抵抗制御(始動)がほとんどでした。これは、始動抵抗の損失が大きく、直流大電流を入り切りするスイッチの集合体のようなもので、メンテナンスの手を要します。この解決のため、一定直流電圧を断続して、電圧を変えるサイリスタチョッパーが営団6000系、国鉄201系に採用されましたが、コストの問題などで小容量のチョッパーなどで、界磁電流を調整して回生制動を可能としたもの(界磁チョッパー、界磁添加制御)が一般的になりました。電車、電気機関車に使う直流電動機と製鉄所、製紙工場、サーボモータのそれとは、要求性能が大きく異なります。電車はその慣性モーメントを加速するトルクを出し、加速し、必要な速度に達すれば電動機をオフにして、慣性で走り、停止時、慣性モーメントを減速するためのフレーキトルクを発生させるというものです。これに対し、製鉄所の圧延機などに適用する直流電動機は電動機の速度を一定にしたり、負荷の急変による速度低下を素早く元の速度に戻すようにせねばなりません。このため、速度センサーからのフィードバックを得て、自動制御を行わねばなりません。速度を如何に精密に保つか!(速度制御精度)、負荷が急に大きくなり、速度がドロップしたとき、所定の速度に如何に速く戻すか!(速度制御応答)が要求されます。これは速度制御と言われますが、トルク制御なども要求されることがあります。サーボモータはロボット、工作機械の位置決めに使われるもので、位置制御が必要になります。直流電動機の電圧制御ではこれらの性能を如何に満たすか?が目的でしたが、サイリスタレオナードはほぼその要求を満たしましたが、電動機の回転数、容量などの製作限界、などにより、制御性能でも交流電動機に敵わなくなりました。                                   
 交流電動機の速度を変えるには電圧と同時に周波数を変えるVVVF(Variable Voltage Variable Frequnecy)電源を必要とします。古くは、直流電動機に駆動された交流発電機で、設置環境が悪く、DCMが使えない製鉄所の圧延プラントのローラーテーブル駆動のSCIMの可変速に使われたことがありますが一般的ではありませんでした。サイリスタの出現により、強制転流回路を伴ったサイリスタインバータは1973年(昭和48年)ごろから比較的大きな容量のポンプ、ブロワの省電力を目的とした、回転数制御に用いられ、電流を速く制御できる電流型サイリスタインバータにはベクトル制御が初めて適用され、抄紙機、鉄鋼プロセスラインに使われました。パワートランジスタを用いた電圧形PWMインバータは比較的小さな容量の汎用インバータとして商品化されました。より大きな容量ではGTO(Gate Turn-Off thyristor)インバータが注目されました。 圧延主機への適用がまず考えられました。このとき適用が考えられたのが3レベルPWMインバータでした。これは通常のPWM(パルス幅変調)インバータが、P、Mの2レベルでパルス幅変調を行うのに対し、素子をカスケードに接続し、P、0、Nの3レベルでパルス幅変調を行うもので、高圧大容量インバータが実現できるとともに、実質的に変調周波数を上げ、圧延主機に要求される速度制御性能にも適うものでした。しかし、損失が大きく、圧延主機用交流電動機駆動にはサイクロコンバータが使われることが多くなりました。サイクロコンバータはサイリスタ変換器の直流出力電圧を正弦波に振ることにより、3相交流を得るもので、変換器は複雑になり、低電源力率、複雑な高調波も発生しますが、変換効率、制御性能には優れていましたので、多く使われました。GTOが本格的に使われたのは電車でした。DC1500Vに2レベルインバータで対応できる素子が開発され、広く使われるようになりました。パワートランジスタとMosFET(電界効果トランジスタ)の複合素子IGBT(Insulated Gete Bipolar Transistor)はスイッチング特性が格段に良く、PWM変調周波数を高くでき、スイッチング損失も少なく、大容量高圧素子も開発され、パワートランジスタだけでなく、GTOの領域もカバー出来るようになりました。電車のインバータもIGBTインバータがもっぱら適用されるようになり、GTOインバーは変調周波数が低いことによる、異音、騒音の発生、素子の製造中止などにより、IGBTインバータへの置き換えも進んでおります。さらにIGBTの順方向ドロップを改善したIEGTも3レベルインバータを構成することにより、圧延主機にも適用されるようになりました。圧延主機のような大容量インバータには3相電源を直流に変えるコンバータにもインバータと同じ変換器を用い、PWM制御をして、電源力率をほぼ1にすることが出来、サイクロコンバータの低電源力率も改善出来ました。このように、現在では、小容量から大容量まで、IGBTPWMインバータでカバー出来るようになりました。交流電動機は磁束と電機子電流(負荷電流)が常に直交するようにせねば、負荷が必要とするトルクを直ぐ発生出来ません。これを実現するのが、ベクトル制御で、SCIM、SM、PMSMとも制御方法は異なりますが、ベクトル制御を行います。従来は、SCIMの場合、電圧と周波数をオープンループで与えるV/f一定制御が汎用インバータや電車などでは、使われて来ましたが、現在ではベクトル制御がほとんど適用されているようです。しかし、電車では4〜8台の電動機を1台のインバータで制御しておりますので、速度センサーも電気的に推定しており、どうしても、低速範囲では誤差が生じますので、きちんとした制御が出来ません。PMSMの場合でも位置センサー(PS)を電気的に求めるものが、電車などでは採用されているので、同じようなことが言えます。SCIM、SM、PMSMとも1台の電動機に正確に速度や位置を静止時まで検出できる速度、位置センサーを付け、1台のインバータで制御すれば、0速度から精密な制御が可能と考えられます。電車では0速度までのの回生制動も可能になると思います。センサーはレゾルバなど機械的なセンサーにならざるを得ないと思いますが、耐環境性などを考慮して、踏み切れないとは思いますが!
 電動機毎にインバータを必要としますが、SM、PMSMの採用は電動機の体積、必要インバータ容量を小さく出来、総合効率も高くなります。大容量圧延主機などはSMの採用、電気自動車、ハイブリッド自動車、サーボモータではPMSMが疑いもなく適用されますが、電車では経済的な考慮をすれば、SCIMを使い続けるのも理解できるところです。

(2013-8-31)作成

に戻る